月ノ美兎の"アングラkawaii"?? 魅力

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『ME!ME!ME!』という曲に出会う。

最近公開されたホロライブ所属・宝鐘マリンのオリジナル曲『I'm your treasure box *あなたは マリンせんちょうを たからばこからみつけた。』のMVの一部が『ME!ME!ME!』のオマージュだ、と動画のコメント欄で話題になっていた。

私はその曲が気になったのでYouTubeで検索して見てみた。公式で上げられているものがなかったので動画を貼り付けることはできないのだが、まぁ一言で言ってしまえばかなり刺激的で「ヤバい」曲(曲というより映像作品)だった。前半は水色の髪の女の子がお尻をフリフリしたりおっぱいがモロに出てたり、過剰に扇情的なアニメーション。後半は主人公と女の子の戦争が始まって、妙に切ない感じで終わる。このアニメーションが表す意味を調べたら掲示板で考察をしてる人とかいたけど、結局、制作陣が遊びのような感じで作ったとのことだった。(この作品自体も『Air/まごころを君に』という作品のオマージュらしい)

 

月ノ美兎のアルバム

久しぶりにアングラなものを見たなぁと思いながらそれ以上調べることはしなかったが、去年ハマって最近またよく聴いてる月ノ美兎のアルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』を聴いててふと、なんとなく『ME!ME!ME!』と通じるところがあるな、と思った。

宝鐘マリンのオリジナル曲のMVは『ME!ME!ME!』の映像の一部をオマージュしていたのだが、それは『ME!ME!ME!』から「エロさ」「セクシーさ」を引用しており、MV自体が宝鐘マリンのセクシーさを存分に楽しめる作品になっていた。(普通に最高なのでぜひ)
ただ、その引用元(?)である『ME!ME!ME!』から感じるものは「エロさ」よりもむしろ「グロテスクさ」であり、その、いかにも“アングラ”なグロい感じを、月ノ美兎というヴァーチャルライバーにも感じるのだ。

グロテスク〘形動〙 (grotesque)
ひどく異様な姿・形をしているため、気味の悪さや不快な印象を与えるさま。グロ。
※秘密(1911)〈谷崎潤一郎〉「黄色い生地の鼻柱へ先づべっとりと練りお白粉をなすり着けた瞬間の容貌は、少しグロテスクに見えたが」

ー出典『精選版 日本国語大辞典

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月ノ美兎自身の書き下ろしグッズ。【けっこうわりといい感じにデカめで煌やかな雰囲気のご報告】〈https://youtu.be/SQF17cxcgzs

 

 

Album『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』

「月の、兎、は、ヴァーチュ、ア、ル、の夢、を、みる」
ー"月ノ美兎"というキャラクターの解体

月ノ美兎が去年出したアルバムの一曲目、『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』。この曲は「月の兎はヴァーチュアルの夢をみる」と言っている月ノ美兎の音声を、切ったり、繋げたりして音に乗せた、歌というよりかはサンプリングのコラージュのようなもの。一曲目にも関わらず、聴いてる者を不安にさせずにおけない、不安定なリズム、合成音声のような月ノ美兎の声。

作詞作曲はASA-CHANG &巡礼というアーティスト。『花』という楽曲が有名で、私はこのブログを書くにあたって初めて聴いた。綺麗な演奏のあいだじゅう、ただ「花が、咲いたよ」と不規則なリズムで繰り返し言っている。ただそれだけなのだが、これがゾッとするほど怖い。聴いていて不安な気持ちになる。

『ME!ME!ME!』に似たグロテスクさを感じたのは、このアルバム一曲目を聴いていた時だった。彼女の声は綺麗で可愛い。そんな可憐な声を安易とぶち切り、変なリズムにのせ、歌にもならないような歌を歌わせている(合成音声のように。)。この楽曲は、月ノ美兎」というキャラクター、及びヴァーチャルユーチューバーととしての彼女の存在自体を解体しているかのようだ。そういう意味で「グロテスク」だと感じ、『ME!ME!ME!』との類似点をみたような気がした。(『ME!ME!ME!』の曲を歌っているDAOKOの歌唱も、声は綺麗なのに音楽や映像と合わさると不気味さを感じる。)

 

「どっちを選んでもひとりの女 ひとつのカオス」
VTuberという存在の“曖昧さ“

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『ウラノミト』は曲名に表れているとおり、"裏の顔"が曲のテーマになっている。
歌詞を深読みすると、性的な表現とも取れるものがあったり、ヴァーチャルな存在からはかけ離れているような生々しい歌詞がちらほら。この、ちょっと小悪魔的な(古い表現?)感じはいつもの彼女のキャラクターと異なるので聴いていてドキッとする。

「背後に気をつけて 首筋そっと キスするふり噛むかも」
「追いかけているのはいい子の方でしょ? 本当のことを教えてあげるよ」
「聞こえているなら返事して 悪い言葉を言ってみて」

メジャーデビューアルバムでメインとして出す曲としてはなかなか挑戦的な内容。MVも衣装もポップで可愛いけど、歌詞はこんな感じだし、音楽は変拍子だったりベースがぐわんぐわん鳴っていたりとちょっぴりダークな印象。「可愛い」も「変」も全てごちゃ混ぜのカオスな感じが、まさに月ノ美兎。可愛らしさの中に毒気を含んだ、一筋縄ではいかない複雑で入り組んだアングラ感が、この一見ゆめカワな楽曲に詰め込まれている。

どっちを選んでもひとりの女 ひとつのカオス

私たちの知らない彼女の裏の顔。VTuberは、他のエンタメ媒体に比べて、配信を通してかなりプライベートなことまで踏み込んで知ることができてしまう。そんな彼女(達)の、こちらからは知ることのできない、裏の顔。
視聴者とライバー(演者)は距離が近いから、配信の内容や発言を聞き、コメントを拾ってもらったりして彼女のことを知った気になってしまうかもしれない。でも、絶対に知り得ないこともある。相手側からこちらに語りかけているようにも仄めかすが(「聞こえているなら返事して。」)、彼女の手に触れることは一生出来ない。私たちは、彼女がインターネット上で見せてくれる「カオス」を、ただ存分に楽しむだけだ。ファジーな距離感を保ちつつ。

(しかし、画面上に映し出されている彼女も、その裏側の彼女も結局同じ「ひとりの女」であって、それは私たち人間も同じかもしれない。彼女のことを「完璧」には知ることのできないように、身近にいる人間1人のことも完璧に知ることなどできない。そこには多くの「謎」が含まれており、だからこそ魅力的に映るし人と人とは惹かれ合うのだ、と思う。)

 

「わたしはね いれるのです どこにでも」
ーかつてのインターネットを現代へ

ただ
近くても遠くてもいい 見えている
誰にもわからない
たしかなものがなくなり 光りだす
それを見ていたいのです いつもただ

長谷川白紙 作詞曲の『光る地図』。この曲でも月ノ美兎の存在は曖昧だ。抽象絵画のような曲なので、この曲に意味を見出すこと自体ナンセンスかもしれない。跳ねるようなメロディと散文的なリリックは彼女の声と調和し、独特な世界観を生み出している。

YouTubeにあがっている、『光る地図』のカヴァー。おどろおどろしいサムネイルだ。

存在は不確かだが「どこにでもいれる」というのは、Vtuberだからこその表現だ。

断片であり、曖昧であるが、どこへでも自由自在に行けるVtuberは、様々な媒体で生きることが出来(謎ノ美兎つきのみと没カット集 - YouTubeがいい例)、月ノ美兎はかつてのインターネットにあった「アングラな、(エロ)・グロ・ナンセンスの蔓延るカオス空間」で、唯一無二の存在感でVtuber界に屹立している。

生き 汚く 生きて
何かを創ったら
あなたの気持ちが1000年生きられるかも しれないから

 

 

月ノ美兎のこれから

私は月ノ美兎の音楽から入った者なので、彼女のこれからの音楽活動に期待している。特にアーティストとしての月ノ美兎Vtuber界の外からも高く評価されているので、これからも界隈の垣根を超えて、次元を超えて、どんどん月ノ美兎の名前を世に知らしめて欲しい。
ちなみに月ノ美兎のオリジナル曲で『アンチ・グラビティガール』、略して"アングラ"という曲があって、そこからこの記事の着想を得たのだが、いい感じに文章に入れることができなかった。これもいい曲なので知らない人は是非。

 

 

▼参考・引用

月ノ美兎オフィシャルチャンネル

https://youtube.com/channel/UCD-miitqNY3nyukJ4Fnf4_A