「いのちは燃やしてくものだなんて 冗談だ ばかみたい」-旧BiS解散ライブを見て感じた、哲学的ななにか

 

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[ BiSの解散ライブを観た ]

 

先日、BiSの解散ライブを観た。

素晴らしかった。WACKのグループは曲が良いのは大前提としてあるが。

客の顔がとても良かったのだ。

あんなに楽しそうな空間、なかなかお目にかかれない。過去の映像だが、「あぁ、自分もここに居たかった、ここにいて一緒に叫び、踊り、泣きたかった。」と悔しささえ感じるほどだった。

 

初代BiSは、ライブ映像など見てもお世辞でも「上手い」と言えないパフォーマンス。歌も外しまくり、ダンスも下手。

しかしとても惹きつけるものがあった。それは強い生命力、愛、みたいなものだろうか。とにかくエネルギーが凄いのだ。

 

過激なパフォーマンスで一部では熱狂的なファンを獲得していたが、なかなか人気が伸びず、夢だった武道館公演を果たせないまま解散してしまった。

どれだけ血の滲むような努力をしても、どれだけ周りから蔑まれても、目標には手が届かなかった。

そんなグループの解散ライブ。派手な演出やパフォーマンスは控えめで、歌とダンスのみ。しかし客とメンバーの一体感は異常なほどで、圧倒されるものがあった。

 

 

 

[ primal. ]

 

彼女達の代表曲に『primal.』という曲がある。

このprimalには、

 

primal=最初の、原始の、根源的な

 

等の意味を持つ。この「根源的な」という意味のprimalはBiSというアイドルを表す言葉としてしっくりくる。

というのも、彼女達の楽曲は

 

●『食べる』

● 生と死、

● 生きること それに伴う苦しみ

● 孤独であること…etc.

 

このように、人間の表向きの姿ではなく、裏側のリアルな、ときにグロテスクな部分を歌詞にしている。

アイドルの楽曲として一般的に想像される"明るい未来"や"明けない夜はない"などのポジティブな歌詞は少なく、上に並べたような"苦しみ"や""のような言葉が並ぶ。

BiSというグループはその活動の中で、可愛く着飾った偶像的な他の「アイドル像」と一線を画し、人間の根源的にあるものを"そのまま"見せる、前衛的な「アイドル像」を見せた。

だから、アイドル界の嫌われ者だったにも関わらず彼女たちのファンは熱狂的で、異様な熱をもっていた。ファンと演者、共に燃え尽きようという「共倒れ」感を、ライブ映像を見て感じた。よく意味がわからないが、とにかくそう思ったのだ。

 

*

 

先にも書いたが、BiSの曲には"苦しい"や"不安だ"のような苦悩の歌詞が多い。

 

いっぱいいっぱい余裕ない

こぼれてくの全部

やるしか道はないけど

tell me tell me why tell me tell me why クルシイ

 

教えてくれ

どうすりゃ良いの?

イデアも枯れ

八方塞がり そうだ このままじゃ

99パー失敗だ

 

助けてくれ 

空回りして いつも1人

僕の言葉なんて所詮届かない

中途半端終わっちゃっていいの?

(nasty face)

 

意味ないこと

なんて言われたくない ズタボロでいい ひどく不安なんだ

(PPCC)

 

この記事で引用する歌詞は全て、彼女たちの手によって書かれたものだ。

葛藤の中で生まれる苦しみや不安をありのまま歌詞で表現している。

彼女たちはその活動の中でアイドルとして苦悩する日々を、現在進行形で見せたのだ。楽曲と、パフォーマンスを通して。

 

 

 

[ いのちは燃やしていくものだなんて 冗談だ ばかみたい ]

 

もう一度 問いかけるよ そこはどうなってるの?

命は燃やしていくものだなんて 冗談だ ばかみたい

(DiE)

 

BiSの代表曲の一つ、『DiE』の歌詞はこのようなフレーズから始まる。この詞は「根源的なもの」を、その身を削って突き詰めてきたメンバー、特に中心人物であるプー・ルイにこそ書けるものだろう。

 

命をかけて何かをしたところで、誰にも見向きもされない、何か現実に作用したという訳でもないとなれば、その努力はなんなのだろう。

BiSの場合は、解散後メンバーそれぞれ活躍している様だし、事務所自体がどんどん大きくなって、彼女たちの努力は決して無駄ではなかったと言える。

しかし、現実には、努力は必ず報われるということはなく、報われずに徒労に終わる場合もとても多い。

世間に溢れる歌や、テレビ・スマートフォンが映し出す「世界」というのは、サクセスストーリーを過剰に演出する。そういったものが、人々に劣等感を植え付け、焦りや不安を感じさせる装置になる。

 

本当は何かに向けて努力することも、さほど重要ではないのではないか。

一度しかない人生とはいえ、素晴らしいことをする必要は全くない。自分の信念に従って静かに生きている人を、誰も非難できない。

愚かだってかまわない。輝く明日を生きろ、なんて、バカみたい。命を燃やして走り続けたプー・ルイの歌詞が刺さる。

 

 

 

[ 孤独が運命さ ]

 

 

耐えた 我慢した 馬鹿なフリだってした

Every time my selfish

つまづく旅にほら僕らココロ折れる

 

というフレーズから始まる、BiSの解散前ラストシングル『FiNAL  DANCE』。

「耐えた 我慢した 馬鹿なフリだってした」という歌詞で、過激なパフォーマンスの裏側にある、素の人間としてのBiSが表現されている。

決して平坦では無かった道。サビはこう続く。

 

SO  VERY VERY  NICE

これ FiNAL  FiNAL  DANCE

孤独が運命さ

 

声を聞かせて 大きな声で

意味ないことを

 

GOING GOING GO  MY WAY

これFiNAL  FiNAL DANCE

思い出すのも

苦痛になるよ? まいっかもう終点だ

明日には忘れてる

(FiNAL DANCE)

 

解散前ラストの曲で高らかに「孤独が運命さ」と歌いきる。

このワンフレーズに大きな意味を感じる。

世界は、"孤独"で溢れている。

孤独はマイナスなイメージで、1人であることは良くない事だと、根強い村社会文化が残る日本ではされがちだ。

しかし、どんなに1人で寂しかろうと、集団の中で安心しようと、結局人間は"孤独"から逃れることは出来ない。

こんな残酷とも思える事実から目を背けず、向き合って、「孤独は運命だ」と歌い切ることに、私は救いを感じた。

そうだ。私たちは孤独であり、人生の大半のことには意味がない。

そんな究極のメッセージを彼女たちは笑顔で、客席に向かって、放っているのだ。

 

かつて『PPCC』で「意味ないこと なんて言われたくない」と歌っていた子達が、「声を聞かせて 大きな声で 意味ないことを」とオーディエンスに語りかけてるところなんか泣ける。

 

*

 

さて、『FiNAL DANCE』についてもう少し。

BiSがカバーしている、国民的ロックバンドTHE YELLOW MONKEYの『プライマル。』という曲があるのだが、この曲とBiSの曲の詞に類似点が多いのが興味深い。(『primal.』はこの曲を受けて作られたのか?)

 

『プライマル。』のラスサビの歌詞を引用すると

 

VERY GOOD だいぶイケそうだ

旅立ったら消せそうじゃん

今度はなにを歌おうか?

卒業おめでとう ブラブラブラ…

手を振った君がなんか大人になってしまうんだ

さようならきっと好きだった

ブラブラブラ…

(プライマル。/THE YELLOW MONKEY)

 

これはBiSの解散ライブで歌われた『FiNAL  DANCE』のことをそのまま歌っているように聞こえる。

 

「VERY GOOD だいぶイケそうだ」 →  SO VERY VERY NICE これ〜

「旅立ったら消せそうじゃん」 →  かけがえのない君と過ごした日々が

                make you free 永久に 消えてしまう

                /思い出すのも 苦痛になるよ? まいっかもう終点だ

                明日には忘れてる

「卒業おめでとう」

「さようならきっと好きだった」 →  解散ライブ

 

『プライマル。』の語り手は、過去の思い出は手放して「今度はなにを食べようか?」等、"これから先のこと" について考え始めている。

『FiNAL DANCE』に込められたメッセージも同じ事だろう。

過去に執着しない、清々しい別れの歌だ。

 

 

*

 

 

いろいろ書いてきたが、マジでライブ映像を見てもらわんンと伝わらないものがありすぎる。アマプラで見れます。(2021.03.13現在)

一期BiSが解散してしばらく経つが、彼女たちの書いた詞やパフォーマンスは今でも胸を打つ。

現在のBiSの楽曲にも旧BiSの楽曲と同じメロディーが使われていたりして、受け継がれているものがあるとも感じる。(まぁ、この辺りあまり興味はないんだけど)

正直WACK(BiSの所属事務所)のやり方に賛同出来ない部分は多くあるのだけど、やはり人の琴線に触れるものを生み出す才能を心底凄いと思うし、尊敬する。

そして実際、『FiNAL DANCE』や『DiE』などの名曲は 孤独な心を励まし、今を生きる力を与えてくれる音楽として、私の中で鳴り続けている。同じ思いを抱える人々にも、時代を超えて鳴り続けていれば、過酷な運命を強いられた彼女達にとっても、幸福な事なんだろうと思う。

 

 

プー・ルイ「人生って上手くいかないことばかりです。BiSをご覧下さい。そうだったでしょ?」

:BiS『STUPiG』インタビューby billboard Japan (http://www.billboard-japan.com/special/detail/817t) より引用